月下独跡
橋本左内(1834-1859)『啓発録』
一.稚心を去る(去稚心)
稚心(ちしん)とは、をさな心と云ふ事にて、俗にいふわらびしきことなり。菓菜の類のいまだ熟せざるをも稚といふ。稚とはすべて水くさき処ありて、物の熟して旨き味のなきを申すなり。何によらず、稚といふことを離れぬ間は、物の成り揚る事なきなり。
人に在りては、竹馬・紙鳶(たこ)・打毬(だきゅう)の遊びを好み、或ひは石を投げ虫を捕ふを楽しみ、或ひは糖菓・蔬菜(そさい)・甘旨(かんし)の食物を貪り、怠惰安佚(あんいつ)に耽(ふけ)り、父母の目を窃み、藝業(げいぎょう)職務を懈(おこた)り、或ひは父母によしかゝる心を起し、或ひは父兄の厳を憚(はばか)りて、兎角(とかく)母の膝下(しっか)に近づき隠るゝ事を欲する類ひ、皆幼童の水くさき心より起ることにして、幼童の間は強いて責むるに足らねども、十三四にも成り、学問に志し候上にて、この心毛ほどにても残り是れ有る時は、何事も上達致(ついた)さず、とても天下の大豪傑と成る事は叶はぬ物にて候。
二、気を振ふ(振気)
気とは、人に負けぬ心立てありて、恥辱のことを無念に思ふ処より起る意気張りの事なり。振ふとは、折角自分と心をとゞめて、振ひ立て振ひ起し、心のなまり油断せぬやうに致す義なり。
この気は生ある者には、みなある者にて、禽獣にさへこれありて、禽獣にても甚しく気の立ちたる時は、人を害し人を苦しむることあり、まして人に於いてをや。
三、 志を立つ(立志)
志とは心のゆく所にして、我がこころの向ひ趣き候処をいふ。侍に生れて忠孝の心なき者はなし。 忠孝の心これ有り候て、我が君は御大事にて我が親は大切なる者と申す事、聊かにても合点ゆき候へば、必ず我が身を愛重して、何とぞ我こそ弓馬文学の道に達し、古代の聖賢君子・英雄豪傑の如く相成り、君の御為を働き、天下国家の御利益にも相成り候大業を起し、親の名までも揚げて、酔生夢死の者にはなるまじと、直ちに思ひ付き候者にて、これ即ち志の発する所なり。
志を立つるとは、この心の向ふ所を急度(きっと)相定め、一度右の如く思ひ詰め候へば、弥ゝ(いよいよ)切にその向きを立て、常常その心持を失はぬやうに持ちこたへ候事にて候。
凡そ志と申すは、書物にて大に発明致し候か、或ひは師友の講究に依り候か、或ひは自分艱難憂苦に迫り候か、或ひは奮発激励致し候かの処より立ち定まり候者にて、平生安楽無事に致し居り、心のたるみ居り候時に立つ事はなし。
志なき者は、魂なき虫に同じ。何時まで立ち候ても、丈ののぶる事なし。志一度相立ち候へば、それ以後は日夜おひおひ成長致し行き候者にて、萌芽の草に膏壌をあたへたるがごとし。
吉田松陰先生(1830-1859)名辞
一、志の立つと立たざると
道の精なると精ならざると、業の成ると成らざるとは、志の立つと立たざるとに在るのみ。
松村文祥を送る序 弘化三年(一八四六)
二、志を以て
夫れ重きを以て任と為す者、才を以て恃(たのみ)と為すに足らず。知を以て恃と為すに足らず。 必ずや志を以て気を率ゐ、黽(びん)勉事に従ひて而る後可なり。
松村文祥を送る序 弘化三年(一八四六)
四、初一念
人は初一念が大切なるものにて、(中略)学問を為す者の初一念も種々あり。就中(なかんずく)誠心道を求むるは上なり。名利(みょうり)の為にするは下な り。
講孟箚記(さっき) 安政二年(一八五五)七月
五、志 専らならずんば
志 専らならずんば、業 盛んなること能(あた)はず。
古助の江戸に遊学するを送る序 安政二年(一八五五)八月
六、貴き物
人々貴き物の己に存在するを認めんことを要す。
講孟箚記(さっき) 安政三年(一八五六)三月
七、天の才を生ずる多けれども
天の才を生ずる多けれども、才を成すこと難し。(中略)少年軽鋭、鬱蒼(うっそう)喜ぶべき者甚だ衆(おお)し。然れども艱難困苦を経るに従ひ、英気頽敗して一俗物となる者少なからず。唯だ真の志士は此の処に於て愈ゝ(いよいよ)激昂して、遂に才を成すなり。
講孟箚記(さっき) 安政三年(一八五六)四月
八、自ら淬(さい)れいして
自ら淬れいして、敢へて暇逸(かいつ)することなかれ。
清狂に与ふ 安政二年(一八五五)四月
九、能(あた)はざるに非ざるなり
能はざるに非ざるなり、為さざるなり。
講孟箚記(さっき) 安政二年(一八五五)六月
十、 心 は
吾れ心は小ならんことを欲し、肝は大ならんことを欲すの語を愛す。
客の難ずるに答ふ 弘化三年(一八四六)春
十一、 己を正す
己を正すの学、勤めずんばあるべからず。
講義存稿三篇 嘉永二年(一八四九)五
十二、 心は以て養ひて
天の人を生ずる、古今の殊(ことなり)なし。心は以て養ひて剛にすべく、気は以て習ひて勇にすべし。
佐伯驪八の美島に役するを送る序 嘉永二年(一八四九)十月
十三、 友なくんば
曰く、「独り学びて友なくんば、即ち孤陋(ころう)にして寡聞なり」と
清水赤城に与ふる書 弘化四年(一八四七)二月
十四、 俗輩と同じかるべからず
自ら以て俗輩と同じからずと為すは非なり、当(まさ)に俗輩と同じかるべからずと為すは是なり。蓋し傲慢と奮激との分なり。
寡欲録 弘化四年(一八四七)
月下独跡
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